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俺の名前を呼んでくれるなら


昨日の「大切な人」のおまけの話です。

 




俺の名前を呼んでくれるなら



ちびっこが最後の言葉を言った瞬間、
「あれ?ちびうさ?」
ウィーンと空いた自動ドアから、聞きなれた高めの声が聞こえてきた。

「あ、うさぎっ!」

たたっと駆け寄る姿はなんだか子供が母親に擦り寄るようだ。
……いや、ただの例えなんだけどな。

「何してるのよ、こんなところで~」
「んーちょっとね。あの人とお話」
あの人、といわれて、指差されたのは俺。
なんとなく決まり悪く手をひらひらと振って見せたりすると、
月野うさぎ……俺的通称でいうと、お団子……は、ハッとした表情でこちらを向いた。
「あ、星野!やっぱりここにいたんだね!探したんだよー」
「は?探してたのか?俺を」
「うん、あたしがね、星野と約束あったんだっていったら、
 まもちゃんが、それだったら今からでも間に合うから行って来いって」
「え~っまもちゃんそんなこといったのー!?」
ちびっこが素っ頓狂な叫び声をあげる。
俺も同じだ。いや多分ちびっこ以上に驚いた。
約束あったんなら行って来いって……
俺はライバルにすらならないってことか?
そんなに彼女は自分に惚れているっていう自信があるのか?
フツフツと湧き上がる怒りを感じていると、ポソリとお団子がいった。

「……守れる約束は、守るようにしておきなさいって。
 約束を守れないことが一番辛いことだから……って」

寂しそうなお団子の顔を見て、湧いていた怒りが静まる。
そうか。お団子の彼氏も、そんな風な顔をしていたのかもしれない。
何があったかしらないけれど、多分この2人にだけ通じる誓いというか思いなんだろう。
本当は、彼氏も行かせなくなかったに違いない。
……でも、それでもあえて、お団子を行かせてる辺り、
大人というか達観してるとゆーか……俺にはマネできないことは確かだ。

「敵わないな、お前らには」
「へ?」
「約束っつっても、遊園地ってのは、朝から行かなきゃ意味ないんだよ。
 今から行っても、人多いだろーし、並んでばっかりいたら、楽しめないしな。
 俺も別にやることがないわけじゃないから、今日はいーよ」
「星野……」
「だけど、今度埋め合わせとして何か奢れよ!約束だかんな!」
そういって手を挙げると、俺は一目散に外に出た。

 

「……俺って……」
外に出てがっくりと肩を落とす。
俺ってなんで、こう……イイヒトなんだろう……。
こんな美味しいチャンスないんだから、ラッキーだと思ってさっさと活用すればいいのに……。
「……また夜天にバカにされるな……」

「星野ーーー!!」
ため息まじりに街道を歩いていると、ふいに上の方から張りあげた声が聞こえた。
声のするほうに顔を向けると、お団子頭がぶんぶんと手を振っているのが見えた。

「た・い・や・きー!!たいやきおごるから!今日はごめんねー!」

ああ、もうあいつオーバーリアクションすぎんだよ、
周りの人間がこっち見てるよ。
仮にも俺、アイドルなんだぜ?
つか、夏にたいやきってどれだけ暑苦しいんだよ、とか
言いたいことはたくさんあったけれど、
ふいに、ぷはっと笑いが全身から湧き出てきた。
「わーかったわかったー!また明日なー!」
おだんごの声以上に、声を張り上げて俺は答える。

いいんだ。
……いいんだ。叶わない恋でも。
君が俺を認めてくれるなら、
俺の名前を呼んでくれるなら、
それだけで、俺は。


fin



あとがき(反転)

星野お誕生日おめでとう!!ってことで。
結局、ウチの星野はいい奴なんですよねー;
強かになれんというかなんというか。
でも、だからこそいいのかな。と思ったりなんだり。
まもちゃんも負けず劣らず、いい奴なんですが(笑)
結局、どっちもやさしいと思うのですな。

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