ちびちゃんの授業参観に関する話。
前後編の前編。
育子ママのちびちゃんに対する立居地はＲ版、
時間軸は、ＳＳあたりです。

「授業参観」（前編）

「今度ね、授業参観があるの」
学校での帰り道、珍しく無言だったちびうさが、
ポツリと口にした言葉は、意外なものだった。
「じゅぎょうさんかん？」
いつもは先に帰って、育子ママのおやつを優雅に食べているはずのちびうさが、
校門の後ろから頭を覗かせているのを発見して、
一緒に帰り始めたのはつい先ほど。
何か自分に用があるのだろう、と思っていたのだけれど、
まさか、そういうことを言うためだったのだろうか？とが疑問に思っていると、
ちびうさが小さなかばんから、ひらりと一枚紙を出した。
「そう、これ」
差し出された手から紙を受け取ると、そこには確かに
授業参観の日付と内容、そして簡単な紹介文が書いてあった。
「ふーん。そっかー。あ、今度の日曜日じゃない」
特に感慨もなく……もちろん、読めない漢字は飛ばして……
紙に書いている事項を読む。
「内容は「わたしのパパとママ」か。へー……。」
　でも、なんであたしに言うの？
　参観なら、いつもみたいに、ママにいえばいいじゃない」
何気なくそういうと、ちびうさの足が止まった。
何かいいたそうに、こっちを見て……また俯く。
「？なにかあるの？」
「べ……別に……何かあるわけじゃ……ないけど」
「ふーん？」
こういう時、普段なら、「なにかって、なんであんたそれがわからないのよ！」
と威勢よく突っぱねてくるはずなのに、今日は至って物静かだ。
言いたいことでも隠していそうなものだけれど、
何か言えない事情でもあるのだろうか？
「どしたの？」
「……それ……育子ママにあげといて」
「へ？あんたが渡せばいいじゃない」
「いいから！渡しといてよね！……じゃ、あたし先にいくから！」
そういうと、最後まで言い終わらないうちに、ちびうさは目の前を駆け出していった。
「……なんなのよ、まったく……」
たまに、あの子は意味が分からないことをするのよね、と思いつつ、
そういう時に限って何か自分に関係することだということに思い当たったうさぎは、
質のいいとはいえないプリントをしげしげと眺めた。

「お帰りなさーい」
ただいまーといつものように、掛け声をかけてドアを開けると、
小気味よく、優しい育子ママの声が聞こえてくる。
「ちびうさ帰って来た？」
とりあえず、邪魔な通学鞄を隣の椅子に置きながら訊ねると、
間髪いれずに声が返って来る。
「ええ帰ってきたわよ。さっき上にあがっていっちゃった」
「ふーん。……あ、そうそう、ママ、これ」
そういって、先ほどちびうさからもらった……というか押し付けられた
プリントを差し出す。
「ちびうさがママに渡してくれって」
「あらまあ、あれは、今度の日曜のことだったのね」
プリントを左手に持った育子ママは
嬉しそうに右手に持ったおたまを振り上げる。
何か知ってそうな素振りに、思わずうさぎは聞き返していた。
「あれって？」
「あれっていうのは、あれよ。
　参観の日に、代表の子が自分の作文を読むことになったらしいんだけど、
　見事にちびうさちゃんがその代表に選ばれたらしいのよ！」
「へー」
代表か……もしかして、そのことを言いたくて自慢したかったから、
自分に言おうとしていたのだろうか？
考えながら、ちびうさの態度を思い出す。
「じゃあ、またママが行くんでしょ？いつもみたいに」
「もちろんよ！……だけど、今回はちょっとちびうさちゃんにとっても
　やりづらいかしら……とは思うの」
「なんで？」
「授業参観のテーマ、「わたしのパパとママ」でしょ？
　いくら、ちびうさちゃんがうちの家族同然といっても、　
　私はあくまでも、親戚の人。ちびうさちゃんのママじゃないのよね。
　やっぱり、ちびうさちゃんも作文を読むんだったら、
　本当のご両親に聞いてもらいたいんじゃないかしら」
少し苦笑して言う育子ママの言葉と、
ちびうさの態度が重なった。
「何かあるの？」といって俯いたあの表情。
（そうか……ちびうさはそのことを言いたかったんだ……。）

ずっと未来の、自分の娘。
まだ、産んでもいないから、そんな風に考えられなくて、
いつも、生意気な妹みたいにしか思えないけれど、
多分あの子にとっては、今の自分でも、母親には代わりないのだろう。

（ほんと、変なところで、素直じゃないんだから）

こみあげてくる温かいものに、くすりと笑うと、
育子ママに向かっていった。
「あのね、ママ、今度の授業参観ね……」



To Be Continued……