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「星野光ってあんたのこと?」
いきなり現れたガキ……いや、ちびっこは、俺を見るなり、そういった。
大切な人
あまりにも突然の出来事に、呆けていると、
目の前のちびっこは、なおも問いかけてくる。
「答えてよ!あなたなの?星野光って!」
「あ、ああ、俺だけど?」
迫力に押されて、そのまま答えると、
「そう」といって、ちびっこは2人がけのもう一方、つまり、俺の目の前の席に座った。
「あたし、メロンソーダ」
勝手にいすわったちびっこは、勝手に注文もして、俺の前に対峙する。
そう、対峙するといった表現が一番正しい。
仮にもアイドルである俺をギンギンに鋭い目つきで見据えるちびっこというのも
なかなかにいないと思う。
……ついてない。
…………本当に今日はついてない。
敵対心丸出しのこのお子様を前に、俺は心の中で盛大なため息をついた。
やっぱ、これは彼氏もちの女の子を好きになってしまったことから来る弊害なんだろうか。
今日だって、彼氏との約束を最優先させる彼女を一ヶ月前から
口説いて口説いてくどきまくって、やっと、こぎつけた、遊園地デートだったっていうのに、会った瞬間いきなり彼氏から電話がかかってきて、ご破算になってしまったのだ。
(俺……何か憑いてんだろうか……)
憑いてるとしたら、お団子の彼氏のような気がするが。
「ねぇ」
ぐるぐると回る思考に身をゆだねていると、
目の前のちびっこが、口を開いた。
「あ?」
「こぼれてるよ」
ん、とストローで指された先には、氷が解けて溢れきったアイスティー。
うわっと口走って、慌てて拭くものを探していると、
「ん」
ちびっこがハンカチを差し出してきた。
慌てているコーコーセーの俺と、妙に落ち着き払っているちびっこ。
……恥ずかしすぎる……
顔が赤くなるのを必死でこらえて、
とりあえず、ちびっこからもらったハンカチでテーブルをふいた。
「サンキュー……ええっと」
ハンカチを返そうとして、そういえば、名前を聞いてないな、と気づく、
すると、こっちが尋ねる前に、ちびっこはこちらをじっと見据えていった。
「うさぎ、よ。月野うさぎ」
「月野うさぎ……!?」
それは、くしくも俺が好きな……正確には、片思いをしている、女の子の名前だった。
視線の鋭さしか感じてなかったというか、見ていなかったけれど、
マジマジと見てみると、お団子とよく似ていることに気づく。
髪のピンク色はともかく、特に二つ作られたシニヨンのツインテールがそっくりだ。
彼女の家族かなんかなんだろうかと思うと、それに呼応するかのようにちびっこは口を開いた。
「ほんとの名前はもっと長いけど、面倒くさいから割愛。
家ではね、ちびうさって言われてるの。うさぎが2人いるから分けるために」
「ってことは、お前お団子の……?」
「そ、あなたがお団子って呼んでる人の家族。あたしね、そのことであなたに話をしに来たの」
「へ?」
その赤い目に、キラリと今までで一番鋭い光を放ったかと思うと、ちびっこは
間髪いれずに発言した。
「あなたってうさぎのことどう思ってるの?」
……しばしの間。
え?どう思ってるって、え?
こういう質問が出てくるということはもしかして……
すでに俺の気持ちが家族全員にモロバレってことなのかっ!???
いきなりの発言にさっきとは比べ物にならないくらい顔が熱くなっていくのを感じる。
だけど、落ち着け。落ち着け星野!
ここでうろたえたら、アイドルという肩書きすら崩れてしまう!
「どうって……言われてもな……」
半ばきかなくなってきている精一杯の理性を総動員して、
当たり障りのない言葉を選んでみる。
しかし、ちびっこは容赦なく問いをふっかけてきた。
「どうしたの?早く答えて!いっとくけど、嘘ついたって分かるんだからね!」
「分かった。分かったよ。でもちょっと落ち着こうな。声、響き渡ってるぞ店内に」
そういうと、ちびっこはハッと我に返った表情になり、立ちかけていた姿勢を元に戻した。
しゅん、としおれた姿は、どこかお団子に似ている。
彼氏がいなくなってから、落ち込んでいた姿とダブった。
だけど、このちびっこの場合は、どこかまた違った真剣さを含んでいる。
何があるんだろうか。俺はそこが気になった。
「……落ち着いたか?」
「……うん」
「そっか。しかし、出会いがしらにいきなり、特定の人間をどう思ってるか
なんて聞くのは、失礼だぞ。びっくりするだろ」
「……ごめんなさい」
何か口答えがあるかと思ったら、意外に素直に謝られた。
こいつは、こいつなりに何か思うところがあるのだろうか。
お団子とは違う、ツンと尖っているシニヨンを見つめていると、
ちびっこはぼそりと、でもはっきりと俺に言った。
「でも……これだけは聞いておきたいの。
ねぇ、あんたは……星野光は、月野うさぎのこと、どう思ってるの?」
茶化しなんて微塵も存在しない、静かで真剣な眼差し。
俺も真面目に答えないといけない、そう思った。
「そうだな……好きだよ。彼女のことは。
彼氏がいると知ってからも、な」
「……!!じゃあ……!」
「でも、彼氏から取ろうなんて思ってない。そりゃま、俺が彼氏になれたら……って
思うことはあるけど、永遠に無理だって、もう分かってはいるんだ。
あいつに、あんな顔させられるのは、あいつの彼氏しかいないんだろうって」
それは、紛れもない本心。
絶対に届きはしない太陽を懸命に掴み取ろうとしている、小さな子供のような思い。
報われないと知っている。けれど、諦める方法を俺は知らないから。
「ま、だから、気の済むまで片思いでいようと思ってるんだよ」
「……そっか」
じっと俺を見据えていた赤い瞳は、しばらく逡巡するかのようにあちこちを彷徨ったあと、
また再度、俺をまっすぐに見つめた。
「……これで気が済んだか?ちびっこ?」
「ちびじゃないもん。ちびうさだもん。
……でも、あなたの気持ち、よく分かったわ」
ぷっと一瞬膨れた頬はすぐに元に戻り、にっこりとした半月の口元へと変化した。
「自分が彼氏になるつもりだっていったら、コテンパンにしてやるところだったけど、
それなら、それでいいわよ」
「おお、こえー」
半分おどけていうと、ちびっこはくすくすと笑った。
なんだ、笑うと普通に子供らしいじゃん。
生意気盛りといったイメージが和らいだ気がした。
「んじゃ、あたし、帰るわ。
あ、ちゃんとお代は自分で払うから、気にしないで。
……今日は、話してくれてありがとね」
ぼそりといった言葉に、小さく頷く。
じゃあ、といって去ろうとした背中に、最初から沸いていた疑問を一つ、問いかけた
「ああ、ちょっと待った。最後に一つだけ」
「?なに?」
「……お前は、月野うさぎのことをどう思ってるんだ?」
最初から感じていた感覚。
多分、それはちびっこが月野うさぎを誰よりも思っているという気持ち。
ちびっこは、くるりっと振り向くと、怒ったような、照れているような表情でこっちを向いた。
「そんなの、決まってるじゃない。月野うさぎは、大事なあたしの……」
その後に動いた口の動きは、後に続く自動ドアの音にかき消された。
fin
あとがき(反転しとります)
星野とちびうさっ
描きたかったんですよ。ずっと前から。
ほんとはちびうさの正体明かして、もっとギャグっぽくするつもりだったんですけど、
いつの間にかほのぼの路線にいってしまいました……。
とりあえず、星野は普通のアイドルな設定です。
これを書いたのは大分前ですが、星野の誕生日が明日ってことで掲載。
明日はこれのちょっとしたおまけみたいなものを載せます。
明日の方が報われてるっぽいので、伏線の意味もこめてたり(笑)
しかし星野とまもちゃんって4日違いじゃないっすか。
ファンは大変DA!(笑)
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