忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

君への思い2


つづきです。












「……あんまり、こういうことは言いたくないんですけど」
彼女の友人は、カップに口をつけたあと、一息つくと、
長い黒髪をかきあげて、言いにくそうに、顔をあげた。

あれからの彼女の様子が一層沈んだものになり、
どうしても、話を切り出せない俺は、彼女の友人に話を聞くために連絡を取り、
いつもなら、彼女や仲間たちと和やかにお茶をしていることが多いこの店で、
話をするべく、向かい合って座っていた。
我ながら、情けないとは重々承知しているけれど、
聞かずには過ごせないほど、追い詰められているのも事実だった。

「やっぱり、これだけは、衛さんにも言っておかなくちゃいけないって
 私も思ってたんです。
 ……だけど、うさぎのことを考えると、なんとなく気が引けちゃって……」

本題を口にしかけて、でもやはりためらいがあるのか、
すぐに前置きに切り替えて、彼女の友人は目を伏せる。
しばらくの沈黙のあと、やがてぽつり、ぽつり、と彼女は口を開き始めた。

「はっきりいうと……ファイター、いえ、星野君は、うさぎのことが……
好きだったんですよね。だから、衛さんのことで……悩んでるうさぎを
励ましたり……してたみたいなんです…」

「……うん」

出来るならば聞きたくないという思いを、理性で必死に抑えて、静かに聞く。
あの時、敵に捕らわれていたからとはいえ、連絡もとれなかった俺に、
彼女はどんな思いを抱いて毎日を過ごしていたんだろうと思うと、
簡単に捕まってしまった自分自身が例えようもないほど憎かった。

「うさぎも一人で大丈夫だって……ずっと抱え込んでたみたいなんですけど、
 ある時、一気に爆発しちゃった時があって……
 その時、星野君が言ったんです。「俺じゃダメか」って」
「………………」
「そりゃ、うさぎは衛さんが好きだから、その言葉でたやすくなびいたわけじゃないですよ。
だって、誰にも言わず、ずっと一人で衛さんからの連絡を待ってたくらいですから。
……だけど」

そこで一区切りつけると、俺の視線を少しでも避けるかのように俯いて、
彼女の友人は呟いた。
「……やっぱりその時、少し……ほんの少し……揺れた…、みたい……なんです、よね……」
「…………そうか……」
やっと言えた言葉は、自分でも面白いほど精気がなくて、
ポーカーフェイスがウリだというのに、これじゃ憔悴しているのが丸分かりだな、と
ぼんやりと思った。

元々、薄々感じていたことだから、事実自体にショックを受けたわけじゃない。
ただ、それほどまでに、彼女が追い詰められていたのかということと、
自分がそういう状況に追い込んでしまった、ということが、
耐え切れないほど、悔しい。
前からそうだった。いざとなると俺は役に立たず、
彼女の力に頼りっぱなしだった。

不甲斐ない。あまりにも。

ずっと守ると誓ったのに。
約束は果たせないばかりで、
俺には、彼女に愛される資格はどこにもないんだと
改めて突きつけられたように、思った。

「……衛さん?」
なんともしれない、表情をしていたのだろう。
見れば、彼女の友人が、心配そうな瞳で、こちらをのぞきこんでいた。
「……いや、大丈夫」
ハッと慌てて、手を組んだ姿勢を元に戻す。
普段どおりを装ってみるものの、やはりどうしても、普段どおりにはいかないようだ。

「話してくれて、ありがとう。今日は、奢るから」
このままここにても、返って醜態を晒すだけだ。
そう思って、伝票を手に、椅子から立ち上がる。
「衛さん!」
すると、待ってといわんばかりに彼女の友人……火野レイ……は俺の手を掴んだ。
「だけど……確かにうさぎは揺れてたけど……
でも、それは、告白されたら誰もがそうなるようなことよ!
いい?どんなことがあっても、うさぎが好きなのは……恋してるのは、
あの時も、それから今でもずっと衛さん一人なんだから!
そのことを……絶対忘れないで!」
彼女はそういうと、俺が持っていた伝票をひったくり、
一目散に駆け出していった。
嵐のように去っていった彼女を呆けたように見つめた後、
急に体の力が抜けて、そのまま椅子に倒れこんだ。

「見透かされた……みたいだな」

苦笑が、こみあげてくる。
ずっと、自分のうちでも見ないように、目を背けていたけれど、
今彼女がいったことは、今の俺の気持ちにぴったりの渇だった。

そう、俺は自信がなかったんだ。
自分が彼女の役にたたず、敵に捉えられたという罪悪感、
そしてこんな自分を好きでいてもらう資格なんてないという思いは、
いつの間にか根をはって、彼女に、好かれているという、愛されているという自信を
少しずつ蝕んでいった。

だから、聞いても話してくれないと決め付けて、
分かっていてなお、スリーライツのことや、星野光のこと、
2人の間に何があったのか、ということを聞かないでいた。
そんな俺の気持ちに不安があったのを感じとって、
あえて彼女は何も話さなかったのかもしれない。

心は、とても不確かなもので、近づくのも、離れるのも、
一つのきっかけに過ぎないのだ。

近づこう、彼女の心に。
きっと何があっても……例えそこに痛みがあっても、
受け止めよう。彼女を。
それが、彼女を守るということになるのだろうから。

ずっと、優柔不断に揺れ動いていた俺の心に、一つ区切りがついた。



To Be Continued……
 

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする:

Copyright © ★ミライカゾク★ : All rights reserved

「★ミライカゾク★」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]